ドラッグストアで買った市販薬も、条件を満たせば所得控除の対象になります。セルフメディケーション税制という仕組みです。ただし通常の医療費控除との「選択」で、両方を同じ年に使うことはできません。どちらが得かは計算してみないと分かりません。
控除額は「12,000円を超えた部分」
国税庁の説明では、控除額はこう決まります。
その年中の特定一般用医薬品等購入費の合計額(保険金等により補填される部分の金額を除きます。)のうち、12,000円を超える部分の金額(88,000円を限度)
数字を入れると分かりやすくなります。
- 購入費2万円 … 20,000円 − 12,000円 = 8,000円
- 購入費5万円 … 50,000円 − 12,000円 = 38,000円
- 購入費10万円 … 100,000円 − 12,000円 = 88,000円(ちょうど上限)
- 購入費12万円 … 計算上は108,000円だが、上限の88,000円まで
つまり購入費が10万円を超えると、それ以上は控除額が増えません。上限に達する金額がはっきりしているので、年の途中でも判断できます。
使える人の条件がある
市販薬を買っただけでは対象になりません。国税庁は対象者をこう書いています。
健康の保持増進および疾病の予防への取組として一定の健康診断や予防接種などを行っている方
会社の定期健康診断、市区町村のがん検診、インフルエンザの予防接種などが該当します。その年に何も受けていない人は、購入費がいくらあっても使えません。ここで落ちる人が少なくありません。
取組を行った証明として、健診の結果通知表や予防接種の領収書が必要になります。市販薬の領収書だけ集めても足りない、ということです。
対象になる薬は限られている
対象は「特定一般用医薬品等」で、市販薬すべてではありません。対象品にはパッケージやレシートに識別マークが付いていることが多く、買うときにレシートを見れば判別できます。どの品目が対象かは国税庁のコード1132にまとめられています。
通常の医療費控除とは「どちらか一方」
国税庁は、この税制を「通常の医療費控除との選択により」適用すると書いています。併用はできません。同じ年に病院にもかかり、市販薬も買った場合は、どちらの計算で控除額が大きくなるかを比べます。
比べ方
次の2つを計算して、大きいほうを選びます。
- 通常の医療費控除 … (一年の医療費の合計 − 補てんされた金額)−(10万円、または総所得金額等が200万円未満なら総所得金額等の5パーセント)
- セルフメディケーション税制 … 対象の市販薬の購入費 − 12,000円(上限88,000円)
病院にほとんどかからず市販薬で済ませた年は、後者が有利になりやすい形です。逆に入院や手術があった年は、前者のほうが大きくなります。どちらかに決め打ちせず、両方の数字を出してから選んでください。
医療費控除の基準額は、総所得金額等が200万円未満かどうかで変わります。詳しくは次の記事にまとめています。
「12,000円」は意外と超える
市販薬に年1万2千円も使っていない、と感じる人は多いはずです。ところが対象になるのは自分ひとりぶんではありません。生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った購入費も合算できます。
家族の人数が増えるほど、風邪薬・鎮痛剤・胃腸薬・湿布のたぐいは積み上がります。家族ぶんのレシートを一年集めてから初めて、超えているかどうかが分かります。集めずに「超えない」と判断するのが、いちばん多い取りこぼし方です。
保険金で戻った分は差し引く
条文には「保険金等により補填される部分の金額を除きます」とあります。市販薬の購入に対して保険金が出ることは多くありませんが、戻ってきたお金がある場合は先に引いてから12,000円と比べます。
控除額と、実際に減る税額は違う
上限いっぱいの88,000円が控除できたとしても、88,000円が戻るわけではありません。所得から差し引く額なので、実際に軽くなる所得税は控除額に自分の税率を掛けたぶんです。
控除額88,000円で、所得税の税率が5パーセントの人なら4,400円、10パーセントの人なら8,800円が目安になります。さらに翌年度の住民税にも反映されますので、所得税の還付額だけで損得を決めないでください。
金額としては大きくありません。それでも、すでに買った薬のレシートを残しておくだけで手続きが成立するという点で、手間に対する割はよい部類です。
やりがちな取り違え
- 健診を受けていないのに申告してしまう … 対象者の条件を満たしていません。証明書類が出せません
- 対象外の市販薬まで合算する … 「特定一般用医薬品等」に限られます。レシートの識別マークで確認します
- 医療費控除と両方申告しようとする … 選択制で、併用できません
- サプリメントや健康食品を入れる … 医薬品ではないため対象になりません
どれも、申告の前にレシートを並べて仕分ける段階で気づけます。年明けに一度に片づけようとすると、仕分ける時間がなくなります。
申告のときに出すもの
確定申告書に「セルフメディケーション税制の明細書」を添付します。通常の医療費控除とは別の様式です。
また、こちらの税制では「医療費集計フォーム」が使えません。国税庁の確定申告書等作成コーナーで領収書の件数が多いときに使える入力支援ですが、セルフメディケーション税制の適用を受ける人は対象外と明記されています。手で入力することになるので、領収書が多い年は時間を見ておいてください。
年の途中でできること
この制度は、年末にまとめて思い出しても間に合わないことがあります。確認しておくのは2つだけです。
- その年に健康診断か予防接種を受けたか(受けていなければ、受けておく)
- 市販薬のレシートを捨てていないか
レシートを捨てた時点で、金額がいくらあっても証明できません。箱をひとつ決めて入れておくだけで足ります。
出典:国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」(令和8年4月1日現在法令等)、同 No.1129、同 No.1132https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm